20041009
11時15分に目覚ましがわりのケータイが鳴る。
が、今日は13時からでも問題ない。
「明日、13時から来ますので」
という伝言を書いてくるのを忘れたことを思い出し店に電話。
早速二度寝決行、と思ったのだが、中途半端に目が覚めてしまった。
気がつくと隣りから電子音。
「あれ、まゆみさん起きてたの?」
「寝て起きたの」
ゲームボーイアドバンスから目を離さずにまゆみさん。
会話までしてしまったことで、もはや眠気は完全に消える。
のそのそと起きあがる。
「あれ? 起きるの?」
「なんか飲みもの…」
冷蔵庫を覗くがなにもない。
「なんかわたしの飲んでいいよ」
「いや、どちらかといえばアイスのほうが……」
「あ。そ」
冷凍庫を物色してアイス確保。
てゆうか、どうせ金は払うんですが。
「じゃあわたしもアイス食べようかな」
二人でアイス食う。
テレビつけて台風情報チェック。
「あー、なんか赤いのいっぱい出てる」
テレビを見ながらまゆみさん。
画面に並ぶ「警報」の赤い文字。
再び寝る。
が、眠気いっこうに訪れず。それでも時間までは、たとえ一分でも余分に寝てやろうと思ってしまうあたり、長年睡眠不足と戦う生活をしてるせいか。単に俺が寝汚いだけって話もあるが。
結局時間ぎりぎりまで布団でだらだら過ごす。
外を確認すると、ほとんど雨は降っていない。今日こそは新しいカバンを使えるだろうか。
……そんなわけないやん(大阪風に)。台風やし。
いちおう雨に備えて雨具を着て出かける。
台風から湿った空気がなだれ込んできているせいか、肌寒いというほどではない。若干暑いくらい。雨は相変わらず降っておらず。
こんなんだったら新しいカバン問題なく使えたじゃん。
そう考えたとたん、図っていたように雨。しかもあっという間に本降り。店まであと数百メートルってところでこのありさま。雨男侮りがたし。
「濡れたー」
死にそうな声出しながら店に入る。
着替えとかしてメシ食って、いつもどおり弁当の発注の修正から。前日の段階では、日曜日の天気予報は曇ったり晴れたりと微妙な感じだったのだが、今日の段階では、ごくふつうに台風一過の馬鹿ッ晴れ。天候要因で客数が大きく左右されるうちの店としては発注数がかなり変わる。
今日は昼間に人の余裕があって、夕方からキツキツなので、昼のうちに売場を完全に作っておかなければならない。在庫を売場に出せるだけ出して、フェースをすべて整える。
16時半からメシ。麻婆丼390円を食す。今日初めて食ったのだが、価格のわりにボリュームもあるし、味も悪くない。売れるわけだ。
17時から夕勤がやって来る。
と同時に、昼勤が退勤。
外の様子を確認するなり、高橋さんが素っ頓狂な声を上げる。
「えー、これヤバいよー」
外はもう、台風本番。風はさほどでもないけれど、とにかく圧倒的な雨。歩道が水に浸っていて、ほとんど洪水状態。床上浸水へのカウントダウンも始まってるんじゃねえのかってくらい。
高橋さんは、自転車通勤。しかもけっこう遠い。レインコートを買ったりなんだりで大騒ぎ。ちなみに客は、さすがにほとんど来ない。
ようやく準備が調って安物ビニールのレインコートに身を固めた高橋さん、及び高橋くんを見送る。外のあまりの雨に、俺はつい言う。
「そこまで完全防備した人を前にしてアレだけどさー、こりゃヤバいだろうよ」
「ヤバいですかね、やっぱ。でも……あ、ほら、あの人自転車だし」
高橋さんの言葉の直後に、ジャイアントのMTBをいかにも細スリック仕様にしましたって雰囲気の自転車が通過する。
「いや。人が乗ってるかどうかの問題じゃねえし。君がコケればそれまでだし」
「えーやっぱそうかなあ」
「うん。危ないよ。バスで帰ったほうがいいんじゃない?」
以前から高橋さんにご執心の高橋くんが、いかにも心配です僕が君を守ってあげたい的なツラと口調で言う。ちなみに、キモい。つーかこいつ正直ムカつく。さらにいえば、高橋さんは、そうした彼の思惑にいっさい気づかないまま半年が経過。アホかこいつら。
「ま、あれだよな。気合さえ入れば、自転車って悪天候最強の交通手段だし」
俺が言うと、
「やっぱそうスよね。行きます」
雄々しい決意の言葉を残して、高橋さん、土砂降りの世界へ。
「……じゃあ、僕も帰りますね。高橋さん、平気かなあ」
高橋くんが未練がましげに後ろ姿を目で追う。知るか。そんなに心配なら走ってあとを追いかけるがよい。
そして店内。
店員しかいない。
おかげで仕事は捗りまくる。なにせ俺はレジに関わらなくていい。どころか、レジを打つ必要がないバイトまで俺の雑用に使えるわけだ。
問題は、いつ台風が通過し、雨が上がるか。通常、台風が通過した直後の時間帯は、殺人的な混雑が待っている。
俺はもう一人のバイトを見る。仮に名称をTとする。
年齢46歳。母親と同居。趣味、SF小説を読むこと、及びパソコンのハードいじり。ラグナロ
クオンラインのヘビーユーザー。そしてどこでどう聞いてきたのかは知らないが、このあいだメイドさんロックンロールの話してた。
バイトとしてはどうか。
頭は悪くないのだが、責任能力がほとんどないので、事実上ただのでくの坊。
…こいつと二人で殺人ラッシュを乗り切らないとならないのか。
19時過ぎ。雨が上がる。
17時ころの段階で本部から「台風に気をつけてください。現在伊豆に上陸したらしいです」との情報をもらっていたので、よもやすでに台風が通過したとは思わない。
「おーっす」
発注していた俺に、オヤジの陽気な声がかかる。
「参ったよもう。仕事になんないよ。道路あちこちで寸断されちゃってさァ。あれだな。あのーサンデードライバーってやつはダメだな。右往左往して危ないったらありゃしねえ」
常連のおっさんだ。汚れた作業服に身を固め、演歌を口ずさむ胴長短足腹も出てますというパーフェクトな土方様状態。
俺も発注の手を止め応対する。
「あー、やっぱりねえ。お疲れさまです」
「なんかもう、台風行っちゃったってな」
「え?」
早すぎねえか?
「時速65キロだってよ。あれだな。スピード違反でキップ切られんぞ、台風」
がはははは。
……クドすぎんぞおっさん。
「でも今日は早く終われて骨休めってとこじゃないですか?」
「そうなんだよ…おっ? まだこんな時間か。なんだ嬉しいじゃねえかよ。ビールでも飲みながらテレビ見るかなー」
とか言いながら、手に取ったのは最安値の発泡酒、ドラフトワン。
俺、ちょっとこのおっさん好きだ。
なにはともあれ、台風が通過したことはわかった。
21時過ぎからが勝負だ。
事情を説明したうえで、俺はTさんに言った。
「少なくとも20時45分には、定型業務はすべて終わるようにしておいてください。そのあとが危険なので」
「わかりました」
まだレジはほとんど混雑していないから余裕だろう。
と思いきや。
22時になっても仕事は終わっていない。しかも終わらないことを報告しすらしない。
仕事のペースを見ていて、これは絶対に終わらないということはわかっていた。が、あえてそれを無視していた。レジが混雑しはじめ、とんでもない大量買いの客が現れ始めるが、呼ばれない限りは手伝わない。指定された時間までに終えられないのなら、そのことは上司である俺に申請すべきだろう。どんなことをしてでも仕事は終えなければならない。終わらなければ、たとえ罵られてでも助力を俺に乞う以外はないのだ。自分の実力不足に起因しているのだから。
しかしTさん、さんざんレジに俺を呼ぶわ、あげくの果てにはレジにだれも並んでないのに遠くにいる俺を呼びつけて、
「袋詰め手伝ってください」
だれもレジに並んでいない以上、たとえどんなに購入点数が多かろうとも、それは一人で対処できるレベルの仕事のはず。しかもその口調が。手伝ってもらうのは当然。こんな酷い目にあってるんだから、という被害者のそれだ。
ぷちん。
ひさしぶりにきれいにキレました。
夜勤が来て俺らがレジに入らなくて済むようになるのを待ってから、バックルーム呼び出し。
「すいません。ちょっとバックまで。来ていただけますか?」
「はいなんでしょう」
裏に入ったとたん俺炸裂。
「あのさ、無能なクセになに開き直ってんの?」
46歳相手にいきなりこれ。
「は?」
「なに当然ヅラして人に袋詰めさせてんだよ。高校生ができることもできないの? あんたいくつ?」
「46です」
「レジ混雑して大変だよね。確かにね。だからって人に自分でできる仕事押しつけていいの? だいたいこんなに混乱する状況になったのはだれのせい? だれが悪いの?」
「…私です」
もちろん、そんなこと思ってるはずない。責任というものから徹底して逃げる人間が言う「悪いのは自分」ほど当てにならないものはない。
てなわけで、このタイプにいちばん有効と思われる攻撃をば開始。
「なるほど。悪いのはTさんなんですね」
「はい」
「では言ってください。悪いのは私です、と」
「悪いのは私です」
「なぜ悪いんですか?」
「実力がともなわず仕事が遅れたことです」
「わかりました。有り体に言って自分が無能だから悪いってことですね。認めますよね」
「はい」
「では復唱確認。無能な私がすべて悪いです。はい繰り返して」
「……」
はっきりと彼の顔に敵意のようなものが浮かぶ。
「繰り返してって言ってるんです。認めてるなら言えますよね」
「…無能な私が悪かったです」
「はいもう一回」
「無能な私が悪いです」
「はいもう一度」
……無言。
このタイプは、まずキレない。キレると獣性むき出しのいわゆる「ケンカ」という状態になるのだが、それが怖いからだ。しかし敵意はありありと窺える。
「あのー、自分ぜんぜん悪いと思ってないですよね」
「思ってます」
「なら言ってくださいよ。あなたの無能ぶりのせいで迷惑かけられた俺の前で。俺が気の済むまで。何度でも。言えるはずですよ? 本当に自分が悪いと思ってるのなら」
再び無言。
「あのね。正直に申し上げて、あなたみたいに46年間自分から、周囲から逃げ続けた人間がどんなに口先だけで謝ろうとも俺はまったく信用できません。できるはずないでしょ。謝罪ってことの意味がわかってないんだから。これだけは覚えておいてください。俺は、たとえどんなに楽しそうに話しているときでも、Tさんがそういう人間であるということを片時たりとも忘れません。あなたが言ういかなることもまず嘘であると考えて咀嚼します」
「……」
「行動で見せるほかないですね。たとえあなたが神経症的な部分で、混乱したときにパニックに近い状態になるとしても」
そうした症状持ちだということは日頃見ていて、実はわかっている。
「だとしてもです。仕事ってのは求められるのは結果ですから。あなたがどんなパニック起こしても関係ないんです。やるべきことはやってください。パニックになることでそれができないというのなら」
Tさんの目を見る。
表情のない目で俺と目を合わせる。自分からは視線を外せない状態と見た。
これは効いてるだろう、おそらく。てなわけでトドメ(はぁと)。
「パニックになるな。そんなことを許可した覚えはありません」
「はい……」
「今後、その単語を口にしたとたん、俺はそれを言い訳と判断し攻撃します。もちろん俺以外の人間に言ったとしても同様です。その話を俺が伝え聞いたら、感情に任せてTさんを攻撃します」
「わかりました……」
オッケー。これで当面こいつは操り人形。
かつての自分が類似の精神構造をしていたので、このタイプを操るにはどうしたらいいのか、手に取るようにわかる。要するに怒られたら怖いわけだ。だから言うことを聞く。この場合「パニック」という言い訳が俺の激怒を引き出すスイッチとなるわけで、彼のなかでそれは「禁止事項」になる。まあこの先何度でも禁止事項に触れるだろうが(なにせ無意識の産物なので)、その場合はちょっと肩でも強く叩いて「ナメたこと言ってんじゃねえぞ」とでも脅せばよい。そのうち条件反射で、少なくとも俺が見ている限り、彼は必死で仕事をするだろう。
ま、なんつーか。お粗末な構造だ。確かにかつての俺も似たような位置づけにいたわけだが、自覚的に「ゴミ」という存在に逃げ込んだわけで、少なくとも「与えられた仕事」に対する責任感くらいはあったけどなあ。
ま、そんなこんなで結局残業となる。
んでこのテキストを書いて0時45分。
さて、家に帰りますかね。
んで家に帰ってサイトの構築を始めたわけなんですが、気がついたら寝てました。とりあかず、まゆみさんは目が痛い。
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