20041011


 朝11時に日記を書き終わって寝る。
 ひさしぶりに「眠りに引きずり込まれる」感じを味わう。

 その後、まゆみさんに蹴られる。
 明らかに意図が感じられる蹴りかただったので、しぶしぶ目を明ける。
 暗い。部屋のなかがあからさまに暗い。
 はっと起き上がってケータイを確認すると、17時半。さて。今日の、つーか今度の勤務は何時からだったっけ。

 …何度味わっても、あの血の気が引くような「しまったー」の感覚は慣れない。つか17時から仕事だっつーのに、起きた時間がこれ。いったい店に着くの何時やねん。
 とりあえず店に電話。いくら半フレックスタイムといっても、これはまずい。
 「あのー、すんません。MK2ですがいま目覚めました…」
 電話に出たのは太田さん。
 昨日クレームで俺に迷惑をかけたと思って恐縮している太田さんだ。
 「あ、店のほうはだいじょうぶですよ。19時から山口さんも来ますし、今日は22時からでも平気じゃないですか?」
 「いや、それは…さすがに…1時間前後で店に着けると思います」
 「わかりました。お待ちしてます」
 まあ、シフトに余裕があったのは知ってたわけなんだけど。そして事実上自分は22時から出勤でも問題ないのは知ってるわけなんだが。
 そういう問題じゃーねーよなー。
 とりあえず10分だけ二度寝してからずるずる起き出してシャワー浴びる。
 重たい体を引きずって家を出る。さすがにこりゃー、しんどい。まあ、毎週月曜はそうなんだけど。

 いちおう恐縮しながら店に入る。
 が、なぜかみんなの目がやさしい。
 「すんません。今日は…こりゃヤバいよねえ…」
 「ああ。高橋さんから聞いてますから。9時過ぎまで店にいたって。で、シフトに余裕もあるし、これは22時まで待ってもいいかなあと思ってたんですよ」
 …ああ。
 持つべきは店長経験者のバイト。
 なんか事態が根本からまちがってるのはともかくとして、気づかいそのものはありがたかった。正直、なんか命削ってそのぶん売上上げてるような気が自分でもしてたので、このタイミングでの6時間の熟睡ってものは実にありがたいのだ。
 とりあえず食いもの買って、弁当の発注などしつつ一服。
 売場のほうは太田さんともう一人のバイトに任せて、自分は次回分のシフトづくり。来客数のわりにちょいとシフトが薄いのだが、そこはまあ、慣れてるメンツばかりということで、なんとかカバーするほかない。

 売場の太田さんに用事ができて声をかけに行くと、突然、不服そうなおばちゃんの声。
 「ねえちょっとー、常温のボカリスエットってないのー?」
 「あ、すみません。えーとですね、常温の…って…、西村さん!」
 「ちょっとー困るわねえ。うちのおばあさんが熱出して入院しちゃったから、どうしても必要なのよー、なんちゃってね」
 もともとうちでパートしてて、老齢の両親の看病のために一時的に辞めざるを得なくなった西村さんだった。つかこの人、どうして現れるたびに客のフリして文句つけるんだろう。
 まあ、この人の基本的なノリだからしかたないんだが。つーか純度の高いおばちゃんコミュニケーションだよな。
 「それはそうと、本当に必要なんだけど。ないの?」
 「まーた。知ってるくせに。いまはないですよ」
 ジュースは、ウォークインと呼ばれる巨大な部屋ごと冷蔵庫にすべて保管されているため、常温で保管されているジュースは、最近のコンビニにはほとんどない。
 「つかそれより、ちょっと時間いいですか?」
 「うん。病院から抜け出してきたんだから、ほんとにちょっとだけど…」
 とにかく明るくて張りのある声がこの人の特徴だ。
 ま、売場で立ち話もなんなので、と西村さんを店の事務所に引きずり込む。

 「えとですね。実は俺」
 「あー聞いた聞いた。1月15日で辞めるんだってね」
 「人の話は最後まで聞いてくださいよ。つーかなんで知ってますかね」
 「甘い甘い。西村さんの情報網をナメちゃいけない」
 つーか顔広いんだよなこの人。どこでどう人間関係がつながってるかわかったもんじゃねえ。
 ちなみにかつてはケーキ屋のチェーン店でバイトしてて、クリスマスケーキの予約数で全国有数の数字をとったこともあるらしい。人脈ととんでもない接客技術のなせる技。俺が店を「売れる」体質に作り替えてくる過程で、この人が店の雰囲気づくりに果たしてくれた役割はけっこう大きい。
 「で、なんなのよ」
 「いえ。まあ俺辞めるわけなんですよ。そんで後任の店長がNくんになるわけなんですけど」
 「まあそうよねえ」
 「んでね。まあ、不安なわけ」
 「そうなの?」
 人の否定的な評価には絶対に首を縦に振らない。ま、食えない人ではある。
 「うん。そんでまあ、単刀直入にいえば、少なくとも1月15日までには店に復活してほしいんですよね。いえ、いまでも充分人が足りてないんで、すぐにでもお願いしたいってとこなんですけど」
 「それはいいんだけど。でも私、前と状況変わらないわよ。お袋さんもさ、なんかがんばってっちゃってるし」
 一時は余命幾許ってな状況まで行ってたらしい。要するに体調崩すとシフト休まざるを得ないってことだ。非常に責任感(あるいは世間体といってもいいけど)の強い人なので、シフトに穴を空ける自分、というのが許せなかったのが、以前退職した直接の理由だった。
 「それは承知です。現状なんとか回せてるんだけど、キツキツ。だから手伝ってくれると助かる。要するにあれです。状況としては、期待せずに待ってるからよければ来てよねーってあたり」
 「んー。いまは急いでるからアレだけどさ。店長明日いるの?」
 「休みです」
 「なんで休んでんのよ」
 「俺を殺す気ですかっ」
 「じゃあ明後日」
 「休みです」
 「…本当は復帰してほしいなんて思ってないんじゃないのー?」
 「そ。実はあれですよ。あのー、本当は西村さんのこと避けてるんですよ。無意識に」
 「やっぱり…って殴るわよ?」
 てな軽いジャブの打ち合いはともかく。
 「木曜なら、17時以降ならいますよ」
 「わかった。じゃあ夜来るから」
 おっけー。またシフト組んでるなんてちょうどいいときに現れたもんだ。この人も。
 「んじゃ、お待ちしてますんでー」
 逃げるんじゃないわよ、なんて捨てぜりふを残して西村さん退場。
 「あ、そーそー。ボカリスエットちょっといっぱいもらってくわよ」
 「毎度ありー」

 西村さんがいなくなってから売場を確認してみると。
 売場に並んでる2リットルペットのボカリスエット全滅。
 …なら一言くらい残していきやがれ……。

 19時に山口さん出勤。
 以前に書いたかわからないが、高校3年生で、卒業したら声優関連の専門学校に行くことが決定している現役のコスプレーヤーっていう由緒正しきマニアの子だ。
 バイトとしては、要領もいいし、なにより声がでかい。雰囲気がタルそうなので元気がいいというのではないのだが、ま、接客の声がでかいのはいいことだ。
 「おはよーござーまー」
 本人ちゃんと言ってるつもりなんだろうが、聞いてる側にしてみればこんな感じ。あんたそれで本当に声優目指してんのか?
 「あー、なんかー、イベント決まったんですよー。ブリーチ合わせでー。だから休み欲しいんですけどー」
 「いつよ」
 「11月3日なんですけどー」
 いきなりそんな話題っつーのもどうかと思うんだが、とにかくシフト表を覗き込む山口さん。
 「あー、休みじゃん。よかったー」
 「つーか君、水曜定休でしょ。テニプリ休み」
 「そっか。3日って水曜だったのか」
 水曜の夜はテニスの王子様のアニメやってるから休み。これ、採用当時からの条件なんで、とりあえず現在まで罷り通っている。
 このまま話を続けさせていると仕事しなくなるので、てきとーにタイミング見計らって、
 「んで今日は、レジとウォーンクインの品出し、どっちがいい?」
 「あー、えーとー…レジ?」
 「あいよ。レジね。いてらー」
 「それでちょーっと店長聞いてくださいよー。このあいだの台風の日ー、学校説明会とかいってー、なんか学校に行かされたんですよー。それはよかったんですけどー、帰ってから、あーなんかじゃがいも食いたくなってー、コンビニに行ったんですけどー、そしたら…なんか風とか雨とか超ヤバくてー、傘がこんなんバッてなってー」
 要するにいわゆる「朝顔」になったらしい。
 「バッて反対に戻して、そしたらバババッて元に戻ってなんかよかったかなーってでもー、足元とか超ビチョビチョでなんかこんな色ついちゃってー」
 「…残りは仕事終わったら聞くから。とりあえず太田さんをレジから解放したげなさい」
 聞く気ないけどな。
 「あ、はーい」
 ほっとくと何十分でも話し続ける。
 そんでだ。
 四苦八苦しながらなんとかシフト表を組み上げる。本当になんとか店が回るだけって感じ。

 さて。今日は月曜日。
 コンビニ者がだれもが恐れる魔の曜日。
 新 商 品 の 日。
 コンビニの棚にはぎっちり物が詰まっている。もちろんそうでない店もあるだろうが、売る気のある店はだいたいそうだ。あるいはぎっちり物が詰まっている「フリをしている」くらいのことはしているだろう。
 その「ぎっちり」状態に、毎週毎週飽きもせずに100種類からの新商品が入ってくる。そして毎週思うわけよ。

 「こんなん棚に入るわけねーだろーっ!!」

 それがなぜか毎週、ほとんどきっちり入ってしまう。もちろんその代償として、あれをこっちにやって、それをどこかに移動して、なんていう商品3000種類のパズルをやるわけだ。これがおそろしく手間がかかる。そのうえうちの店は、新商品を非常に強く押していく店なので、入り口の特設台に大量に納品された新商品を並べ、それを飾りつけるためのPOPを書き…だのなんだのしていると、あっと言う間に朝になる。
 一人ではとうてい終わらない。
 てなわけで、まゆみさんに手伝いに来てもらうようになったわけだ。

 0時ころ、まゆみさん到着。
 どうせまゆみさんが来るのがわかっていたので、腹が減ってたのだが我慢していた。
 まゆみさん到着するなり、食いもの購入。
 まゆみさんはリプトンのグレープティーとチェリオのアーモンドのやつ。あととっておき宣言のクリームパン購入。
 俺は腹が減ってたということもあってしっかり食おうと思ったのだが、店の弁当はとてもじゃないけどもう食う気にならない。そんでほかのものを買おうと思ったんだけど、もう覚えてねえや。

 仕事中のことに関してはあんまり覚えてないというか、書いても特におもしろいことはなかったと思うので、省略。

 結局、朝の7時過ぎまでかかる。
 仕事が終わった毎週火曜の朝恒例、向かいのジョナサンでお食事。
 雨が降ってるので傘を持って出る。疲れてるし雨降ってるしで、今日は自転車を置いてバスで帰ることに。
 「昨日起きた時間が時間だけに、ぜんぜん眠くないんだよね」
 俺が言う。
 「それで、ですね。お出かけしましょう」
 「えー、いまからー?」
 俺の脳裏には、このあいだの市電保存館がとても楽しかったので、またお出かけしたいという野望がある。このあいだ「次はこども科学館だーっ」と言っていたので、どうせバスなんだし一日乗車券使えば大して高い交通費かからないんだし、ってのもあった。
 「本気で? 本気で言ってんの?」
 「うん。眠くないし。お出かけはやっぱ楽しいですね」
 バスのみでこども科学館に行くには、何度か乗り継ぎしなければならない。その経路を相談しつつ、ジョナサンへ。すぐに行ってもよかった。てゆうかむしろ知らない場所でゆっくり茶をしたいってのがあったんだが、
 「この混んでるバスに乗りたい?」
 バス停には長蛇の列。
 「やだねえ」
 てなわけでやっぱジョナサンに。
 ジョナサンでは、以前うちの店でバイトやってたものの、遅刻や急休みが頻繁になったためクビにしてしまった元バイトが働いている。最初は気まずかったんだが、慣れてしまった。

 二人とも腹は減ってなかったので、俺はトーストセットというやつを。まゆみさんはからあげだけを註文。そして当然のようにドリンクバー二つ。
 こうやって仕事のあと、二人でよもやま話をするのが、いまの生活での唯一の楽しみってところだろうか。といっても話題はコンビニ絡みになるんだけど。
 来年中には、俺は独立してコンビニのオーナーとなる。二人で同じ職場で楽しく働こうってのは目標のひとつだったわけで、それをようやく実現できるときが来たわけだ。いま俺が店長をやっている店は、来るべきに備えての実験場、というような扱いだ。
 「でもさー、本当に売れるようになったよねー。いまの店」
 「なったなった。夜とかさ、すごいのな。大量買い。カゴ持ってる率高いんだよ」
 「そうそう。昨日Kさんがさ」
 Kさんというのは、昨日っつーかさっきまで夜勤に入ってた主婦。20歳まで中国にいたのに、ほとんどネイティブかと思うくらいに流暢な日本語を話す。相当に知的で論理的な考えかたをする人だ。
 「レジ打ったあとにカゴをかたつけてたの。こんなくらいの」
 胸の高さを示すまゆみさん。
 「高さまでカゴが積み上がってるの。またずいぶん溜めたんだねーって言ったら、それが1時間くらいしか溜めてないっていうんだよね」
 「昔はねー。客は入ってくるけど、なにも買わない、とかそんな店だったかからねー」

 その後、テキストにまとめきれないくらい多くの話をする。
 とてもじゃないけどあの会話の量を要領よくまとめるのは不可能なので割愛。

 結局8時近くにジョナサンに入って、11時40分くらいまでしゃべってた。
 「なんかさー、ダルくなってきた。眠いし」
 とのまゆみさんのセリフで、今日のお出かけはとりやめに。俺は残念だったが、まゆみさんが「ぼりん日記」を書くらしく、それを読むのが楽しみだっつーのもあったので、なんとか諦めがつく。
 店を出るときに傘を持ってきてしまったのだが、結局は晴れてしまい、自転車で帰ることに。疲れてるつーても毎日通ってる距離だし、その気になれば帰れないことはない。
 途中、セブンイレブンに寄って、ジョナサンからえんえん引きずってる傘のビニール袋を捨てる。そんで、間門のファミマに寄ってチロルチョコを購入。傘は傘立てに差してそのまま忘れてくることにする。どうせもともと店の忘れものの傘だし。
 まゆみさんは店の外で待っている。ヤケに殺伐とした雰囲気のレジの女の人に軽い恐怖を覚えながら店を出る。
 「まゆみさんにおみやげがあります」
 チロルチョコを差し出す。
 俺はまゆみさんにつまらないものをあげるのが好きだ。
 「34歳のおっさんが、チロルチョコ2個だけ? 恥ずかしー」
 「そうです。2個だけです」

 根岸駅近くのセブンイレブンで、今日家に帰ってから飲み食いするものを購入。
 まゆみさんはセブンのプライベートブランドの菓子「濃厚チーズスティック」を購入。早いチートスの味の濃いヤツだな。いまパッケージ確認したら、ジャパンフリトレーが作ってるものだった。やっぱ。あとリプトンのグレープティーとミント味のアイス。
 俺は空腹だったので、ねぎ塩カルビ弁当と濃厚チーズスティック、あとチョコパイアイスとホイップメロンとかいうパンを購入。セブンのパンは単価は高いんだけど、味はいい。

 家に帰って日記書き開始。現在に至る。

 なんつーか、まゆみさんと二人でいるときの描写というのはけっこう書きづらいものがある。客観的じゃないからなんだけど。ま、これもそのうちおいおい慣れるでしょう。
 家に帰ってからテレビ見た。
 異常なお約束空間と人間性のカケラもないキャラクターと濃すぎるセリフ満載の三流昼メロ「愛のソレア」をツッコミ入れながら見て、現在は西部警察。これ、おかしいんだけど。あの銃撃戦とかどう考えてもおかしい。橋の上になんかもう、ずらっと警官並んでみんなで仲よく一斉射撃。団長は放水車にまたがって水撒いてるし。

 ところで俺、いつDVD設置するんだろ。くらなどやってねえよまだ。

 さて。今日は寝て起きたらペッパーランチで夕食たー。

 以下追加。
 しゅんたんの日記を読んで思ったこと。
 たぶん世のなかの男性の大部分は、仕事を通じて「しか」自己実現というのができないのだと思われる。自己実現という言葉の意味は、自分で設定した目標を達成して「やったー」と思うこと。仕事っつーのは往々にして大変なものなので、経営する側は、仕事関連の目標を持ってもらって、それに対して必死になってほしいと願う。自分の持ち時間のうち、膨大な時間を仕事に費やしてるうちに、人はいつしか「やってらんねー」と思う。せめて仕事するんだったら「やりがい」とかあったほうがまだマシだ、とか思う。そしてそうした小さな「やりがい」を少しずつ感じてるうちに、自分がやっている「仕事」というものにおもしろみを感じてくるようになる。
 その無限の繰り返しが自己実現というヤツの正味のところかと思われる。
 なんつーんだ。要するに人は「俺だけの力でなにかをやったんだ」という実感が欲しいわけだ。ただ、実際のところ人は、特に男性は社会的に金を稼ぐことが期待されてるし、仕事をするしかないわけで、そして人は自分だけの力で「なにか」をなし遂げることは非常に難しい。そこで「仕事を通じて」ということになるわけだな。

 ただし。
 仕事を通じてってのは、結局のところ「他人に与えられた」ものでしかない。自分自身が「よりよい存在になりたい」と思い、その具体的な理想像を持っているのならば、他者から与えられた「目的」は必要ない。
 仕事を通じた「自己実現」というやつを嘲笑するためには、自分自身に「こうなりたい」という理想像が必要だと思う。成長していきたい。そのためにはどんな困難も乗り越える。そうして到達した「自分」というものに、きっと自分は満足できる。…まあ、実は満足したら、そこが終点で、人は守りに入ってしまい結果としてロクでもないものになったりもするんだけど。

 というようなことを解説したうえで俺自身の考えを言うと、実現すべき自己なんぞ糞食らえです。俺はただ自分の好き放題に生きていきたいだけです。そのやりたい放題の境地を実現すべく、必要な現実的な努力は、必要最低限惜しまない。
 なんつーか「自分の王国」を守るための現実的基盤を、自分にいちばん快適なかたちで用意してやる。その結果がコンビニ経営だったのかな、という感じ。


今日のぼりんの日記



前の日  次の日





      トップに戻る

      過去ログ