20041019


 さて。いきなり日記を数日吹っ飛ばしてしまったわけですが。
 もはや時系列ではまったく書けそうにないので、てきとーに。


 昨日今日と連休でした。
 とはいっても、連休初日についてはほぼ夜勤明けといっていい状態だったので、実質半休なんだけど。俺は前日、夜と深夜に仮眠をとってあったので、まあそんなにツラくなかった。まゆみさんは、体調のせいもあって熟睡できない日々が続いてるので、前日の昼間に寝てあったとはいっても、そんなに元気ではないもよう。

 仕事終わって店を出たのが、午前10時くらい。
 お出かけしようという方向で話がまとまり、とりあえずマイカルのどこかで茶でもしながらこのあとの行動の相談をする。
 横浜こども科学館。
 これが本日の俺の野望だ。
 小学生の身分にとってもさほど料金は高くなかったこともあって、遠くから自転車で訪れたことが何度もある。しかし、施設内部にあるプラネタリウムは別料金だった。しかも入館料そのものよりも高い。あの場所に入りたい。それが子供のときから現在に至るまでずっと抱いていたものすごく小さい野望だった。
 マイカル内のフードコートで、ノーパソまで引っ張りだして経路の相談。
 まゆみさんはマックでポテトとアイスティーのMサイズ。俺はなんかオムライス屋みたいなとこでカレーオムライスとやらを註文してから、さて相談開始。
 「なんかさー、バスの路線図って、ないんだけど」
 「あ、そうそう。ネットだとまともな路線図ないよ」
 なるほど。ただ、いずれにせよ本牧からこども科学館のある洋光台まで、簡単にバスで行くことは難しいようだ。徹夜明けっつー体力的なこともあるし、より楽なルートを選ぶ。
 メシも食い終わったところで、まゆみさんが言い出した。
 「このあいだテレビでやってたんだけど」
 すべての小学校がそうであるのかは俺は知らないが、まゆみさんがテレビで見た学校では、とにもかくにも男女を差別しちゃいけないらしい。だから名前を呼ぶのもすべて「さん」で統一。「君」はだめらしい。座席順も男女混合で五十音順。あと「かわいい」という形容を使ってはいけないらしい。それは女の子専用の褒め言葉だからだそーだ。
 「これって、男女平等とかっていうんじゃなくて、男女違っちゃ"いけない"ってことだよね」
 「ま、そーなんでないの」
 「でもさ、これってつまり、女の子はスカートはいちゃいけないってことだよね」
 「そりゃそーでしょ」
 「それっておかしくない?」
 「おかしいでしょ」
 つまりまあ、そういうことだ。男女は等しく平等な権利を持つべきである、っつーのはまあ当然だと思う。同様の権利を持つことと「違ってはいけない」ということは、ほとんど無関係といっていいくらい違う。
 「現場の先生たちもおかしいと思いながらやってるのにさ、なんでそんなことしなきゃだめなんだろう」
 疑問を消せないまゆみさんに、ジェンダーがどうしたとかいう見当違いの談義などブチかましてから、ようやく出発。

 外に出てみると、なんつーか、豪雨。台風も来てないってのに。
 磯子駅行きのバスに乗る。
 30分くらいで磯子駅着。目的がなければ来るような場所でもないので、えらいひさしぶり。ケンタッキーがあって、ミスドがあって、あとなんか古い雑居ビルみたいなのが多数。根岸線沿線ってどこもそうなんだけど、風景がなんかすすけてて古くさい。
 磯子からは根岸線って選択肢もあったが、電車に乗るために階段を上るのが面倒なので、あえてバスで。と思って時刻表確認したら25分待ち。しかもなんか「こまわりくん」とかふざけた名称ついてるバスらしい。
 「帰る帰る帰る帰る」
 冗談半分ながらも連呼するまゆみさんをなだめつつ、バスを待つ。
 帰らない代償としておそろしい約束をさせられる。
 「ゲームソフト、カゴいっぱいね」
 ガクガクブルブル。
 やってきたバスは、なんつーか、名前から想像されるとおりの小さいもの。しかもなんでか知らんけど、ものすごい人数がバス停に並んでいる。徹夜明けの体、そしてこの湿度の高さ。多めの乗客。そんな状況で立っていくのはかなりキツいものがある。
 微妙な順番ながらも、車内に乗り込んで首尾よく二人がけの席を確保。

 知らないバス路線に乗ったなら、ぜひ沿線の景色は見ておきたい。
 のだが、絶望的な眠気には勝てず、熟睡。まゆみさんに起こされたときには、洋光台駅直前。
 「あー、外が涼しい」
 バスが停車して、ようやく蒸し暑い車内から解放される。俺はしっかり寝汗をかいている。そしてまゆみさんは(今日は初めからそうだったんだけど)、けっこう皮膚がかゆくなったもよう。
 洋光台なんて、それこそ子供のころにこども科学館に来て以来かもしれない。記憶にある映像とそう大きな違いはなかったが、いまこの年齢の目で見てみると、実に不思議な光景の駅前だ。
 駅前にいきなりにょきにょきと林立する公団住宅。バカみたいに広い駅前のバスターミナルは、ひっきりなしにバスが発着している。団地の一階にある古い感じの商店街は、その古くささにも関わらず物が溢れている。駅前には、スーパーが多い。
 「東急ストアでしょ、イトーヨーカドーでしょ、それにマツザカヤ、あとさっき向こうにオリンピックあったよね」
 まゆみさんが言う。
 「あった。つか根岸線沿線って東急ストア異常に多いよな」
 「多いねえ。お、ドトールもありますねえ。寄っていきますかね」

 午後1時半。確かにドトールみたいな茶を飲むのがメインの目的であるところの店は、混んでて当然の時間といえる。
 しかしこのありさまは。
 「なんかさあ、すんごい混んでるんだけど」
 座席について店内を見回しながら、嫌気がさした、ってな口調でまゆみさんが言った。
 「混んでる。しかも、なんつーか、年齢層が…」
 「うん。高い。てゆうかうわ、あそこのじーさん」
 俺の斜め後ろにいるじーさんを目で示す。
 「灰皿逆さ。ヤバいよあれ」
 「ヤバいな…かなり」
 店内は、中高年と呼んで差し支えない人ばかり。灰皿逆さにしたじーさんの手は微妙に震えてるし。しかもこれが、次々と店内に客入ってるんだ。どいつもこいつも中高年。
 「なんでこんなことになっちゃってんの?」
 まゆみさんの疑問で、不意に思い出す。そーいやここの駅前の光景、駅さえなくせば若葉台団地によく似てるんだ。古くさい高層住宅。そーいやご近所がどうしたってNHKの番組で、団地のメインの年齢層が同時に定年退職の世代になったって話があったな。団地ができればそこに入居する人たちは、だいたい似通った年齢層になるわけで、そこから数十年の月日が流れれば、みな揃ってお年寄り、というわけだ。
 まゆみさんにそのことを説明する。
 「あー。どうりで。そういえばここの駅に来る途中のバスさ、すんごい住宅街のなかを通ってきたんだけど、その住宅街が、いかにも昭和40年代って感じの造成地だったんだよね」
 「だろうねえ。根岸線沿線って、要は根岸線開通と同時に開発がスタートしたわけだから」
 ひさしぶりの一服などしながら、雑談。
 「そーいえばユニクロってさ、なんかブランド化を目指すらしいよ」
 「ブランド化?」
 「うん。だからほら、エルメスとかそんなような意味でのブランド」
 「あー。まあ現状、ユニクロはしょせんユニクロだからねえ」
 「うん。服ってさ、安いっていうだけでだめな部分あるから。ほら、ユニクロの品質がいくらよくたって、結局若い人からしてみればユニクロはユニクロじゃん」
 気にしない人にしてみれば関係ないんだけどさ、とまゆみさんは続ける。
 「カシミアセーターとかもその一環らしいよ。年寄りってフリース着ないじゃん。若い人ももうユニクロのフリースを外で着ることはしないじゃん。でも、セーターって年配の人しか着ないし、単色ってしばりがある以上、デザインのバラエティは期待できないし、若い人も年配の人も着ないと思うんだけど」
 つまりユニクロもうだめって結論か。
 「んー、でもユニクロみたいなのってほかにないからねえ。ああ、GAPがそうか」
 てな四方山話をしばらくして、落ち着いたところで、ドトールを出る。
 外は、あいかわらずの雨。だだっ広い駅前だが、通行人の数はヤケに多い。
 さっきのドトールでの四方山話に含まれていたことだけど、雰囲気が地方都市の中心駅に似ている。これで市役所とデパートがあれば完璧、とはまゆみさんのセリフだが、まさにそんな感じ。結局、生活圏として中途半端に独立しているうえに、中高年齢層が多く街そのものがあまり変化する必要がないあたりで「時代から取り残された」感じがする。そのへん、総合的に感じ取れば「地方都市っぽい」っていうことになるんだと思う。
 駅前から、ひなびたオリンピックの前を通り、こども科学館へ。
 入館する前に、ちらりとセブンイレブンが見える。店構えや立地から考えて、かなり「ヤバい」雰囲気の店だ。あれは売ってる。まちがいない。
 その店の見学は科学館を出たあとにすることにして、ひとまず入館。

 入館料及びプラネタリウムのチケット合わせて1000円也。基本的に金かけて遊ばない俺らにしてみればけっこういい金額だ。
 「モト取れるかねー」
 「取れないんじゃない?」
 最初からここに来ること自体にはさほど乗り気でないまゆみさんが冷たく言い放つ。
 くっ。内心俺も「結局子供しか楽しめねー」っていうオチを恐れてるんだから、そんなに冷静に指摘しなくても。
 プラネタリウムの上映までは1時間以上ある。
 なにはともあれまずトイレ。んでついでに近くにある喫煙所確認。電車の駅構内も、そしてたいていの建物も禁煙でなかった時代とはワケが違う。
 トイレに行く途中特別展示みたいなので「光」をテーマにしたのをやっていたので、先にそれを見ることにする。
 まず薄暗い一角の奥に、なんだかいろんな光が明滅しているコーナーへ。片隅にショーケースがあり、ネオンライトやらなんやら、さまざまな種類の照明が展示されている。蛍光管で「あかり」という字を象ったものの横で、バックライト付きの液晶パネルのストップウォッチがものすごい勢いで秒を刻む。なんかマヌケな光景。コーナー全体をブラックライトが照らしているので、俺のシャツもまゆみさんのシャツも、白い部分が発光してちょっと気色悪い感じになっている。

 玄関正面のロビーに戻って、エレベーターに乗る。
 ヤケに巨大な横幅。差し渡し4メートルくらいはあるんじゃねーのか。
 しばらく待って扉が開く。
 うっわ。扉広がりすぎ。
 開く前から幅はわかっていたはずなんだが、これまた、実際に開くとちょっとビビる。
 「ほら。一クラス分だから」
 小学校のとき、集団でここに来たことがあるまゆみさんが言う。なるほど。そりゃそーだわ。ここは基本的に小学生が集団で連れてこられる場所なのね。
 にしてもヤバいのはエレベーターの内装。扉が開いた瞬間にもちょっと「うッ」とか思ったんだが、乗り込んで扉が閉まるといっそう強くなるその思い。
 うちゅうっぽいのだ。
 実際こども科学館は、宇宙物理学関連の知識を小学生に伝えるためにあるんだと思うんだけど、だからって、こんな胡散臭く「うちゅうっぽい」感じでなくても。
 濃紺色の壁面。天井も「うちゅう色」のパネルがはまっている。そのパネルには星っぽい感じで穴が空いていて、天井に設置された蛍光灯の光を通している。扉を入った正面には、電光掲示板に流れる文字。
 なんつーか、十数年前のハイテクを具現してるようで、非常に居心地が悪い。のだが、その居心地の悪さが逆に期待感を高める。
 5階到着。ここから順に下りながら展示を見ていくことにする。

 5階は、宇宙開発についての展示がメイン。実物の隕石があったり、質量1キロの物質が、地球、火星、金星、木星ではそれぞれどれくらいの重さに感じるか、てなことが実感できる展示。
 惑星着陸のシミュレーターもどきがあったので、さっそく乗り込む。デパートの屋上にあるような乗り物っぽい外見。もぐり込むように内部に入ると、椅子がある。座って正面を見ると、そこにディスプレイと操作パネル。スタートボタンを押す。
 メニューが表示される。「初めての方へ」「初級」「中級」そして、
 「やっぱこれでしょっ」
 俺がメニューを途中までしか読んでないのに、まゆみさんがいきなり上級コースを選ぶ。
 画面に変なキャラクターが現れる。機械的なくせになれなれしい音声で、
 「ああ、危ない」
 「ブースター、オーン」
 …なんだこいつは。
 とりあえず「ブースター」と書かれているボタンを押しながら、なんとなく方向レバーをがちゃがちゃとやる。画面自体は上からの惑星俯瞰図になっている。着地させるのが目的なので、画面は見るみる近づいてくる。そんで、どかーん。
 画面いっぱいに「Failure」の赤い文字が点滅。
 うわ。開始数秒で死んでるよ。
 最初に戻って、遊び方の説明とやらを読むが、やはりよくわからない。初級者コースでもう一回どかーん。
 いやになってすぐやめる。
 5階にはほかにも、けっこう大きなスクリーンで宇宙開発の歴史とかのプログラムがやってたりとかしたんだけど、そのへんは見ないで通過。

 じゃそろそろ4階に下りますか、と階段へ向かう。すると、踊り場に妙に丸っこくて生物的な感じのロボットもどきがいる。子供の背ほどの大きさなのだが、横幅も同じくらいあるので、かなりの威圧感。
 顔にあたる部分にディスプレイがはまっている。
 「ぼくの鼻を押してね」
 とかゆってるので、いちおー付き合って押してやる。ちなみにこいつ、しゃべる。てゆうかこの科学館にあるキャラクターっぽいものはだいたいしゃべる。
 「今日はどこから来たの?」
 質問と同時に画面に選択メニューが出る。神奈川県、神奈川県以外。
 選択すると、次に市や区を選ばされる。えらい細かい。なんか個人情報を盗むための罠なんじゃねえかと思うくらい。
 一事が万事この調子でえらい細かい質問をされる。それらに律儀にいちいち答えてやると、最後にパスワード入力を求める画面が出る。そのパスワードとやらは、別の階にあるこいつの仲間のロボットもどきが吐き出すらしい。それをこいつに入力すると、なんかもらえるとか、そんな寸法らしい。
 超いらねえ。
 画面を初期化しぼくの鼻を押してね状態のまま放置して階下へ。

 4階。光や電波で遊ぼう、のフロア。
 「電波で遊ぶのはヤバいだろう。あれはそんなかわいいものか?」
 「いや、俺に聞かれても…」
 「あんた電波の専門家じゃなかったの?」
 違います。電波体質の人を呼びやすいだけです。俺自身は決して電波体質ではないです。とはいえ、人生のどこかでまちがっていれば受信しっぱなしだった可能性はある。最近はあまりないが、昔はよく、頭のなかに無意味な文章の羅列が流れて止まらないことがあった。自分の意志で止められないのでけっこう怖い。そのままテキストに叩きつけて日記にしちまったこともあったな。
 俺の受信疑惑は晴れないまま展示を見る。

 目には見えない赤外線を確認したりとか、なんかいろんな展示がある。おそらくひとつひとつは興味深い展示なんだろうけど、なにせ俺らは遊びに来てるので説明なんか読まない。結果、自分たちの目の前で起こってる現象がなんなのか理解できない。ま、できなくてもいっこうにかまわないわけだが。
 そんななか、馬鹿でもわかるおもしろい展示が「フラッシュパネル」というやつだった。
 向かい合うように、フラッシュと蓄光塗料を塗ったパネルが置かれている。そのまんなかに人間(じゃなくてもなんでもいいんだけど)が入ってポーズをとれば、背後のフラッシュパネルに影が残る、というもの。とりあえずありえないポーズをとってみたところ、複雑怪奇な影が残った。
 「あんたさー、それやってること小学生と一緒なんだけど」
 「いやだって、ボーズとれって書いてあるし」
 「だからっていい大人がいかにも小学生がやりそうな変なボーズとるなっ」
 爆笑してんのに怒られた。

 3階は、乗りものっぽいものとか、体を使って遊べるものがたくさんあって、つまり子供に大人気のコーナー。もういいかげん3時近いってのに、小学生が大量に。さすがにここに混じって遊ぶわけにはいかんので、パス。2階は展示なし。そんで、地下に移動。「サイエンスギャラリー」と銘打った展示を見て喜ぶ。

 喫茶コーナーでメロンソーダなど購入してから、喫煙所に移動して一服。
 まゆみさんに聞く。
 「どうよ。もと取れた感じする? 俺は400円分は充分に楽しんだと思うんだけど」
 「うーん。わたしは200円くらいかな」
 また微妙な。
 ガラス張りの壁から見える陰鬱な雨の景色を眺めながら、俺は感想なんか言ってみる。
 「なんかさー、確かにすんげー展示いっぱいあるし、金かかってんだろうけど、少なくとも楽しませようって感じはあんまりしないよね」
 「そうだねー」
 「市電保存館のほうが、展示とかはあんまなかったんだけど、楽しんでもらいたい、っていう意識が強かった気がする」
 「そうそう。市電保存館だから、保存してる市電置くしかないはずなのにね。でもそんなもんかもよ。だってここ、小学生が学校の行事で来て勉強するところじゃん。みんなで来るって前提なら、展示は多いほうがいいし、これでいいのかも」
 まあ、そんなものかもしれない。
 わずか二つしか○○館みたいなのを見てないのだが、思うのは「見てほしい」「楽しんでほしい」という作り手の意識が(おそらく)重要なんだってことだ。俺は確かに市電に興味あったけれど、まゆみさんはなかった。それでも楽しめたのは、些細な「気配り」のようなものが理由だったと思う。保存してある市電に乗り込むと、自動的に電車の音が流れる。当時の雰囲気を極力再現するような内装がなされている、エアコンの空調がちょうどいいなんてことまで含めて。
 小売やらこうした博物館っぽいものまで含めて「客」を受け入れる業種ってのは、結局いかに客の無意識の欲求まで満たしてやるかが勝負なんだと思う。どこまで考えられるか。どこまで気づけるか。たぶん、サービス業に限らずなんでもそうなんだと思うけど。

 そんな感想を抱きながら、最後のプラネタリウムは向かう。
 チケットの半券を切ってもらって、わくわくしながら入場。
 内部の雰囲気は映画館みたいな感じだが、スクリーンが天井ほぼ全体を覆っているのが大きく違う。ま、あたりまえだ。プラネタリウムだし。ただ、想像していたのよりさらにスクリーンがでかい。上のほうが見やすいですよ、という案内の人のアドバイスに従って、階段をのぼる。
 座席は想像していたのと違って、天井に向けて傾いているというのではなかった。感覚的にはほぼ室内すべてをスクリーンが覆っている感じなので、天井近辺はともかく目線に近いあたりなんかはその状態では見づらいからだろうか。
 とりあえずガキがいない時間帯だったのは幸いだった。
 「子供って、騒がなくかも動きとかうるさいからねえ」
 特にこうした静けさが必要なものだとなおのことうるさく感じられるもんだ。ガキってのは。

 アナウンスがあって照明が落とされる。
 室内のほとんどを覆うスクリーンは薄ぼんやりと白さを残していて、まだ月夜くらいの明るさがある。やがてスクリーンの光も消えて、真の闇になる。
 突如として星があった。
 空には星がいっぱいあるということを俺は知っている。もちろんまゆみさんだって知っているだろう。しかし俺らが住んでいる場所は横浜だ。星なんて、二等星すら見えるかどうか怪しい。
 この星空はおかしい。真っ先に俺はそう思った。
 「空気がきれいで、人口の光がまったくない場所では、これくらいの星が見えるのです」
 アナウンスの女声が言った。
 ということは、六等星くらいまでは投影されているのだろう。
 子供のころ、函館に住んでいたころには見ていたに違いない星空。異常だと思えるくらい圧倒的な数の星が瞬く。
 「なんか、気持ち悪いんだけど」
 まゆみさんが呟く。
 これはホンモノの星空ではない。スクリーンに投影された一等星から六等星の星は、奇妙な見せかけの立体感を生み出す。いってみれば3D酔いに近い状態を生み出す。この星空はホンモノではない。
 しかし、言葉を失わせるには充分だった。これは、きれいだ。
 やがてお決まりの星座の説明なんかが続く。
 それに続いて、30分ばかりのプログラム上映。プラネタリウムっつーても、要は映画のスクリーンなわけで、まあ映画みたいなこともできるわけだ。
 「未知の惑星を求めて」
 まあ、海王星とか冥王星とか、そんなものの発見秘話だ。早い話がプロジェクトX。

 1時間ばかりの上映が終わって外に出る。
 あとはみやげ物。これ重要。
 みやげ物コーナーはかなり充実してるっぽい。そこそこのスペースに所狭しといろんな商品が並べられている。
 が、求めていたここでしか買えない「こども科学館」という字が入ったベタなものはない。市販の「宇宙っぽい」感じのものばかり。結局買うものもなく出る。
 疲れていたこともあったし、もう見るべきものはすべて見た。

 外は相変わらずの雨。
 まゆみさんに聞いてみる。
 「プラネタリウムはどうでしたかね」
 「星もっと見たかった」
 正直俺もそんな感じだった。後半のプログラム、あれ決して出来が悪かったわけじゃない。でも、特に「プラネタリウム」という施設のなかでやらなければならないことだとも思えない。まあふつう、星空ばっかりたとえば十分とか見せられても退屈するとは思うんだ。
 でも、なんか違う。
 期待してたものと違う。昔から見たかった、という過大な期待感のせいかとも思ったんだけど、やっぱりそれとも違う。プラネタリウムじゃん。星が大好きで、その楽しさを、美しさを多くの人に伝えたい、と思って作られるプログラムが本当だと思った。少なくとも、俺はそういうものを期待していた。

 帰りがけに隣のセブンイレブンに寄る。
 これが、とんでもない高レベル店。自分の店以外でしっかり棚割り組んでる店って、本当にひさしぶりに見たかも。

 例によって疲労困憊状態で帰途につく。
 …ここまで書くのもけっこう疲れました。
 つーか、事実の描写って難しいなあ。自分の思ってること書くのなら簡単なんだけど。自分で読み返してみて、けっこう書けてねーなあとか思う。



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