20050430
古くからの友人に、おそらくは最後通牒と呼んでもいい性質のメールを出すことになると思います。
人は、不可避的に社会に関わらざるを得ません。どうやってもそこから逃れる方法はないはずです。人は、物理的に隔絶されるのでなければ、本当の意味で一人きりで生きていくことは不可能なはずです。
あとは、その人と社会の関わりかたの問題となります。
俺が、利害や社会的立場を抜きにして友人だと思っている人に、俺はいかなる意味でも、その存在の社会的な意味を問いません。その人が見ている世界、感じている空気、そうしたものも含めて、俺にとっては「その人」であり、その人がただ現在あるようなものであることそのものに重大な意味があるからです。
俺が「成長」という言葉を嫌うのは、一般的にいわれるような「成長」ということが別にその人自身にとって素晴らしいことではないからです。成長が役に立つのは、社会と社会におけるその人の立場にとってのみですから(それが人間という存在の大部分を占めることが多いのは重々承知のうえで言っています)。俺にとってある人の存在が素晴らしいとき、それはその人が必ずしも社会的に意味のある存在である必要はないのです。成長を拒み、自分の殻に閉じこもっていても、その人の見ている世界があまりに美しければ、俺にとってその人は意味のある存在なのです。ただまあ最近、とある事情によりいくら美しい世界を見て、美しい文章を紡ごうとも、許されないくらいの弱さに甘んじて死ぬことだけは罪悪だと思うようにはなりましたが。
しかしその友人と俺は共同で仕事を始めることになりました。
「ベタベタとしたなあなあの関係ではなく、仕事でつながった仲間であることを前提にしたうえで始めよう」
そのような意味のことを彼は言いました。
俺は、彼ほどの状況分析力をもった人間をほかに知りません。その頭脳は、たとえ肉体に多少の障害があろうともまったく問題にならないほど、一緒に仕事をやるうえで魅力的なものでした。
仕事のパートナーということであれば、その関係は対等でなければなりません。社会に参加することの意味、自立した人間であること、そうしたことに自覚的であってもらわなければ、一緒にはやっていけません。
彼は言いました。
「俺も成長したよ。ずいぶん変わった」
ああ、そうか。俺もいろいろな経験を経て、確かに世間的な意味での「成長」ってやつはしたらしい。それと同様に彼もまた、自分だけの経験の果てに、確かな現在の自分を構築したのであろう、と。それは成長という概念に対して否定的な俺ではあっても、多少なりとも嬉しさのようなものがありました。
少なくとも、彼が次のようなことを言い出すまでは。
「確かにヤツはかわいそうだ。同情の余地はあるよ。環境的に厳しかったらしいからなあ」
ちなみに俺の周辺(リアル)で家庭環境に恵まれてる人間は一人もいないというとんでもない事実があったりするんですけど、これはそのうちの一人についての話です。
このセリフを聞いたとき、俺は非常に腹が立ちました。
その「ヤツ」というのは、確かに子供のころ家庭環境は悪かったし、いま現在なおそのことで戦っています。実を結んでいるかと聞かれれば微妙なところですが、少なくとも彼は自分が自立した人間であるためになにが必要であるのかをよく知り、拙いながらも歩きだそうとしているのです。
それを知りながら、彼は「ヤツ」のことを「かわいそう」と表現しました。
それを俺は「ヤツ」に対する侮辱だと感じました。
同情していったいなにになるというんだろう。「ヤツ」の戦いを戦えるのは彼自身以外にはいないというのに。自分の目指すべき方向を見出した人間に対して「かわいそう」とは。
「ヤツ」は、自分がより生きやすくなる方法として「強くなる」ことを選択しました。同情するということはそれを否定するということです。「ヤツ」より上の立場に立って、彼の決意を否定することにほかなりません。
そして「ヤツ」より前に進んでいるのなら、本当に上の立場に立てる人間であれば、同情などまちがってもできないはずです。
その傲慢さ。
許されないほどの無自覚さ。
別に単なる友人であるのならば、それでもかわまないのです。そうした矛盾を無意識に多量に抱え込んでいることに由来する、特殊な価値観がある可能性があるから。そしてそれを俺がおもしろいと思う可能性だってあるから。
けれど、友人ではなく対等な関係で行くと言ったのは彼のほうであり、そして彼はそう言った端から自分の発言を裏切るのです。それはもちろん俺に対する裏切りでもあるでしょう。
ふつうならここで切り捨ててしまってかまわないのかもしれません。仕事だと割り切るのならば、むしろそうすべきなのでしょう。しかし彼は俺の友人です。やれることはやっておきたい。
だからメールを書きました。3時間ばかりかかった。
その内容を受け入れるも入れないも彼次第です。
たださ、いちばん古い友人として。彼が、自分のやってることの意味も理解できない馬鹿だと思いたくないんだよね。これだけ長く関係が続いてきたならさ、そこにはそれなりの相手に対する評価のようなものが存在するわけで。
もしこれで彼がなにもわからないのなら、彼を評価してきた俺が馬鹿みたいってことなわけで。
……いたたまれないよなあ、それ。
などと書きながら鼻毛が7本も抜けたのでけっこう気分がいいです。あとベランダでゴキブリがとつぜん死んでるんだけど、あれはどういうことだろう。どこかで農薬でも食らってきて、ベランダで力尽きたんだろうか。
←前の日 次の日→
|
|